SpatialChat:距離のあるコミュニケーション

新型コロナウイルス感染症の流行に伴って、オンラインでの講義、演習、事例検討、研修などが盛んに行われるようになりました。カウンセリングや心理療法もオンライン化が進んでいるところがあります。その昔はインターネットには実名を出さない、写真を載せない、プライベートをさらさないといったことがある意味ネット利用の教養であったわけですが、今ではインターネットも生活の一部となり、ネットと現実という対比も意味を失いつつあります。

こうしたオンラインでのコミュニケーションにはビデオ会議システムが最もよく使われています。zoom、Teams、Meetなどのシステムが1対1の、もしくは複数の参加者によるコミュニケーションを可能にし、ミーティングやセミナーが数多く開催されるようになりました。特に研修については、ビデオ会議システムがあることで遠方からの参加が容易になり、開催者にとっても集客がしやすくなり、メリットも増えました。

ただ、このビデオ会議システム、画面に参加者の顔が並ぶのですよね。平面上に人の映像が並ぶことで心理的に疲れるとか、ずっと画面を見ていないといけないので視覚的に疲れるとか、1人が話すと他の人は話せないとか雑談や個別の話ができないとかのコミュニケーションの不自由さがあって疲れるとか、便利ではあるものの疲れる要素がいくつかあげられます。

アタッチメントセミナーでは、1年に1回くらいは参加者が集まって話のできるアタッチメント・カフェを開催したいと思っているのですが、コロナ禍のもとではオンライン開催になりますし、その方が遠方からの参加もできて良いのですが、カフェ的に集まって話すという形式を取りたいと思っていました。ビデオ会議システムではないコミュニケーション・ツールを探しました。

そこで見つけたのが、SpatialChatでした。仮想空間でコミュニケーションを取ることができるサービスなのですが、調べてみると2020年の夏ごろからいくつかのサービスが作られたようです。その中でSpatialChatは、機能がシンプルで、距離の概念があって、使いやすいそうに思いましたので、導入してみることにしました。

SpatialChatの画面は、このようなものです。

小さく映っている○が参加者です。○の左下に黄色い印のあるものは主催者です。この画面ではカメラとマイクをオフにしていますが、カメラをオンにすると○の中に映像が入り、音声が聞こえます。ビデオ会議システムに比べるとカメラ映像が小さく、空間の中に置かれていることが分かると思います。さらに、これが何よりの特徴なのですが、SpatialChatには距離の概念があります。参加者同士の距離が近ければ声が聞こえますが、遠ざかると声が聞こえなくなります。メガフォンを使えば参加者全員に声を届けることができます。

つまり、全員に対して発言することと、近くにいる人と会話を交わすことが交互にできるし、誰かが全員に対して発言している間に近くの人と雑談をすることもできるのです。アタッチメント・カフェをこの形で実施してみたいと思っています。

使い方はそれほど難しくはありません。このスペースのことを「ルーム」と言いますが、ルームのURLからアクセスすると、名前と紹介文の入力を求められます。会の主旨に合わせて、実名であったり匿名が可能であったりすると思いますが、紹介文を入力しておくと、参加者同士の交流に役に立つと思います。

その後、カメラとマイク、スピーカーの設定を求められますが、ここでは設定をせずに、ルームに入ってから行います。カメラとマイクにアクセスしてもよいか許可を求められることがあると思いますが、許可してください。入力後にパスワードを求められます。主催者からもらったパスワードを入力します。

すると、先ほどの画面が現れます。再掲します。背景はオーナーが変更できます(別の人のルームでは別の背景が使われていると思います)。

自分の○をドラッグして動かせます。誰かの近くに持っていくとその人の○が大きくなり、遠くに持っていくとその人の○が小さくなります。声の大きさもそれに連動して変わります。一番小さくなったところで音が聞こえなくなります。近づきたい人をクリックすると、その人の近くに自分の○が移動します。

下に並ぶツールバーのボタンは各種機能で、左から「共有」「コメント」「カメラ」「マイク」「メガフォン」「退出」です。

共有:   画像、ビデオ、GIF、デスクトップが共有できますが、ビデオで表示できるのはYouTube、Twitch、Vimeoです。手持ちのビデオやスライド、書類などを共有したいときは、デスクトップの共有を使います。
コメント: 絵文字と文字が使えますがビデオ会議システムとは違って、すぐに消えてしまいます。
カメラ:  カメラをオン/オフにします。
マイク:  マイクをオン/オフにします。
メガフォン:全員に声を届けることができます。
退出:   ルームを退出します。

右上にある歯車アイコンではカメラとマイク、スピーカーの設定をします。

左側にある三角を押すとサイドパネルが開き、参加者や(あれば)別のルームが見えます。

右下の+−ボタン、もしくは二本指スクロールやスクロールホイールなどで画面を拡大縮小できます。また画面をつかむと上下左右に動かせます。どれくらい動かせるかは、ブラウザの表示サイズによって違います。ルームの大きさは一定であるため、ブラウザの表示サイズが小さければ動かす範囲が大きくなり、大きければ表示画面の中に収まっていると思います。

使い方はそれくらいです。あまり複雑なことはできません。また、スマートフォンからは一部の機能が制限され、特にビデオなどを見ることができません。パソコンからアクセスするのが良いと思います。また、パソコンのブラウザも最新のものにアップデートしておいた方が良いと思いますし、パソコンの性能によってはすべての機能が使えないかもしれません。

発展途上な部分もありますが、何より距離の概念があるために、わいわい集まるのには適しているのではないかと思います。2月15日までは無料で使えます(人数は最大25人まで、1ヶ月に3,000人・分=人数×時間の制限があります)。

別の場面で試行した際には、画面が拡大縮小できることがメリットとしてあげられました。ビデオ会議システムとは違って、誰かが共有したものを自分で拡大して見ることができるのが便利に感じられるようです。また、SpatialChatでは、複数の人がそれぞれに映像やデスクトップを共有することができます。これも便利な機能かもしれません。

使っているうちに新しい使い方が見いだされ、それに加えて機能も強化されていき、数年後にはこの手のサービスのどれもが今とは大きく形を変えていくだろうと推測できるほどに、次世代のコミュニケーション・ツールとしての素質を備えています。

さて、SpatialChatの説明はそれくらいです。ビデオ会議システムは疲れるな、ということがあれば試してみてください。

ところで、1つ注意喚起をするというか、気をつけておくべきことを事のついでに共有したいと思います。

アタッチメント・カフェをSpatialChatで行うのに先立って、これがうまくいくのか、何人かの方に協力を得て試行版を行ってみようと思っていまして、そこではただ集まっていただいてもどうしたらいいか分からないかもしれませんので、何かイベント的なことを用意しようと思いました。

何をするのが良いだろうかと考えて、手元に「A Two Years Old Goes To Hospital」のDVDがあったので、これを流して、感想を言い合いたいと思いました。そのためには、手元で動画を流し、それをデスクトップで共有することになるります。

ところが、これが著作権法に違反する可能性が指摘されています。家で、あるいはどこかで、数人と見るのであれば、私的な鑑賞の範囲内とされますが、ネット上での鑑賞は、それがビデオ会議システムによる数人との鑑賞であっても、公衆送信と呼ばれるものに該当すると見なされる可能性があるそうです。まだ確定された法解釈ではないようですが、これは注意が必要です。

今回のDVDについては、研究会で議論したいが問題はないかと販売元に問い合わせ、出版社に転送してもらい、そういう使い方なら何も問題はないと許可を得て、teaching notesまで送ってもらったため(もしかしたらDVDに入っていたかもしれません)、安心して実施ができますが、多少面倒でも、毎回そのような手続きを取った方が良いのかもしれません。

ちなみに教育現場では昨年、授業のオンライン化が進みましたが、それに関しては補償金を支払えば著作権者の許諾はいらないようになっていて(「授業目的公衆送信補償金制度」と言います)、2020年度はコロナ対策として補償金が0でした。2021年度からは補償金が必要になります(教育機関が支払うことになるのだと思います)。

便利になった部分と権利や倫理に関連して、知っておかなければならないことが増えている部分とがありますが、うまく活用して、できることを増やしていきたいものですね。

ひとまず、ビデオ会議システムに疲れた方のために、もう少しだけ現実の要素を取り入れたコミュニケーションをはかりたい方のために、オンラインでもsocialなdistanceを調整できるSpatialChatのご紹介でした。

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